登記上と評価証明書上の所有者の齟齬の原因

登記上の所有者の記載と固定資産評価証明書や土地家屋名寄帳(以下「課税台帳」といいます。)に記載されている所有者が異なるケースがあります。

今回の記事では、

  • 登記上と課税台帳の所有者の記載内容に齟齬が生じるのはなぜ?
  • どのような理由で表題登記の申請を怠っているの?
  • 登記をする意味は?


について、司法書士が解説します。


このような現象が起こるケースは、次のような場合です。

  • 建物を解体後、滅失登記の申請をしないまま同所に建物を新築したが、当該建物が未登記である場合
  • 建物の所有者が死亡した後、相続人が同建物を増築したが、表題変更登記申請をしなかった場合

このような場合、対象不動産の物理的現況は、従前の表題登記の記載内容と齟齬が生じていますので、本来であれば、適切に滅失登記や表題変更登記の申請をしなければなりません。

なお、不動産の所有者がこれをしない場合は、課税台帳を管理している市町村等が、対象不動産の物理的現況及び真実の所有者を調査(調査といっても結局のところ所有者の申告等に委ねられていますので正確ではありません)したうえで課税台帳の書換えを行います。

そのため、時間の経過や調査情報の不正確さとが相まって、登記上の建物と課税台帳上の建物の同一性が不明瞭となったり、所有者情報に齟齬が生じるなどの問題が発生しています。

これを課税台帳を管理している市町村等側のミスだと一蹴するのは簡単ですが、不動産の所有者自身にも申請義務のある登記を申請しなかったという原因がある以上、これについては不動産の所有者又は承継人らにも非があるといえます。

なお、このようなケースで司法書士や土地家屋調査士が登記の申請依頼を受けた際は、不動産の所有者又はその承継人及び市町村等から当該建物に関する聴き取り調査等を行い、これらの情報を精査したうえで総合的に判断し、これから申請する登記の内容を決定していくことになります。

このようなケースでは、通常の登記申請依頼に比べ調査に時間がかかりますので、専門家に対する追加手数料が発生する場合があります。

また、新築建物課税標準価格認定基準表等により不動産の評価額を算出しなければならないケースでは、登録免許税額も上がります。

このような状況を避けるためにも、不動産の所有者には、表題登記の申請や表題変更登記の申請は、その都度適切に行っていただければと思います。

以下、表題登記に関する申請を怠っている方数十名にその理由の聴き取り調査を行いましたので、簡単に紹介するとともに、これに対し、専門家から回答します。


  • 登記申請をすることによって、固定資産税が徴収されると勘違いをしている
  • 表題登記に、申請義務や罰則規定が存在することを知らない
  • そもそも不動産登記をする意味がわからない
  • 登記費用を支払いたくない

(1)「登記申請をすることによって、固定資産税が徴収されると勘違いをしている」について


不動産の所有者は、不動産の所在地の市町村(東京23区は東京都)から、物理的現況に応じた固定資産税(市町村は市町村税、東京23区は都税)を徴収されます。

これは、不動産登記の申請をするしないに関係なく徴収されますので、表題登記申請をしない理由にはなり得ません。

本来、課税台帳の記載内容は、登記記録上の記載内容と一致するように作成されます。

しかし、不動産登記法上の測定基準と税法上の測定基準が異なる等の理由で、評価証明書等には、登記上の記載内容とは別に物理的現況(地目、地積及び床面積など)についても併記されています。

このことからもわかるとおり、市町村等は、不動産の所有者が登記申請を怠っている場合でも、当該不動産に関する情報を把握するよう努めています。

不動産所在地の市町村等は、市民から適切に固定資産税を徴収するために、地方税法の規定にしたがい調査委員を現地に派遣し、固定資産に関する調査を実施しています。これにより市町村等は、登記申請を怠る人たちからも確実に固定資産税を徴収することが可能になります。

したがって、固定資産税を支払いたくないから表題登記の申請をしないという理由は、論理上成立し得ないことがわかります。

ただし、調査委員が把握できていない建物が稀にあったりします。ですがこれは極めてまれなケースであり、また後にこれが発覚した際には過去にさかのぼって固定資産税を徴収される可能性がありますので、安易な判断はしないほうが賢明です。


(2)「表題登記に、申請義務や罰則規定が存在することを知らない」について


不動産登記法47条及び同法164条は、新築建物の所有権を取得した場合等について、次のように規定しています。

(新築建物の所有権を取得した場合)

(建物の表題登記の申請)
第47条 新築した建物(省略)の所有権を取得した者は、その所有権の取得の日から1か月以内に、表題登記を申請しなければならない。
(過料)
第164条 (省略)、第47条、(省略)、の規定による申請をすべき義務がある者がその申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処する。

上記のとおり、不動産登記法47条及び同法164条は、新築建物の所有権を取得した者に対し、表題登記の申請義務及びこれを怠った場合の罰則について定めています。

また、新築後に増築等のリフォームを行った際にもこれと同様の登記申請義務や罰則規定があります。

(増築等をした場合)

(建物の表題部の変更の登記)
第51条 第44条第1項(表題部に関する)登記事項について変更があったときは、表題部所有者又は所有権の登記名義人(略)は、当該変更があった日から1か月以内に、当該登記事項に関する変更の登記を申請しなければならない。
第2項~第6項省略
(過料)
第164条 (省略)、第51条、(省略)、の規定による申請をすべき義務がある者がその申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処する。

その他、建物を取り壊した場合にも同様の規定が存在します。

(建物を取り壊した場合)

(建物の滅失の登記の申請)
第57条 建物が滅失したときは、表題部所有者又は所有権の登記名義人(省略)は、その滅失の日から1か月以内に、当該登記の滅失の登記を申請しなければならない。
(過料)
第164条 (省略)、第57条、(省略)、の規定による申請をすべき義務がある者がその申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処する。

したがって、上記に該当する方は、上記の規定にしたがい法務局へ表題登記申請を行う必要がありますので、その都度、適切に登記の申請を行っていただければと思います。


コメント
実務上では、表示に関する登記申請を怠った場合でも、過料制裁はないというのが実情です。そのため、法律上、義務と罰則に関する規定があるにもかかわらず、実務上では過料制裁がないという極めて不自然な状況となっています。とはいえ、あくまでこれは私が見聞きした限りの情報ですので、これについてのご判断は各自自己責任でお願いいたします。また、以下(3)及び(4)の回答のとおり、過料制裁がないからと言って安易に登記申請を怠るべきではないことは申し添えておきます。


(3)「そもそも不動産登記をする意味がわからない」について


不動産登記をする理由については、不動産に関する自己の権利を第三者に対抗するためです。

我が国の法律では、不動産登記をしない者は、自己が取得した不動産に関する権利を第三者に主張できないルールになっています。

(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
民法 第177条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

第三者とは、契約当事者及びその承継人以外の者を指します。

上述のとおり、表題登記(不動産の物理的現況を公示する登記)については、不動産の所有権を取得した者に申請義務がありました。

しかし、「権利部「甲区」及び「乙区」」については、不動産登記法上、現時点において相続登記を除き、登記申請義務はありません。

なお、民法上には各種の登記請求権がありますので、厳密には、権利部については登記申請義務がないというと語弊がありますが、これは民法上の請求権の話であって、不動産登記法上の申請義務(違反者に過料制裁があるもの)とは別の話です。

つまり、不動産登記における権利部の登記は、現在、不動産登記法上では相続登記を除き登記申請義務はなく、不動産に関する自己の権利を保全したい人だけが登記申請ができるものとして設計されていますが、民法上の第三者対抗要件との関係を考慮すると、これを具備するためにも、権利に関する登記申請は必ず行うべきです。

これは、不動産登記法上、登記申請義務のある表題登記には登録免許税が課されないのに対し、権利に関する登記には登録免許税が課されていることの理由でもあります。

不動産、特に土地は、国土そのものですから、これについて国が把握・管理したいのは当然です。しかし、不動産に関する権利については、これを保護するか否かの選択権は当該不動産の所有者に委ねられています。

そのため、表題部の登記には登録免許税がかからず、権利部に関する登記には登録免許税が課されるという仕組みになっているのです。

なお、表題登記を申請すると、表題部に「表題部所有者」なるものが登記されますが、表題部所有者には、上述した民法177条が規定する第三者対抗力はありません

以上を簡単にまとめると、不動産登記を申請する意味とは、不動産に関する自己の権利を第三者に対抗するため、つまり自己の権利を守るためです。

したがって、不動産登記をする意味がわからないという理由で登記申請を怠る行為は、自ら自己の権利を危険にさらしていることと同義であるといえるでしょう。


(4)「登記費用を支払いたくない」について


登記費用にかかる費用についてもったいないと感じるかどうかは、各自、不動産の所有者の自由な判断にお任せします。と、言いたいところですが、不動産に関する自己の権利が危険にさらされた場合に失う費用と比較すれば、権利を保全するために要する登記費用を出し惜しみするのは得策ではありません。

また、新築をした際に申請する表題登記に関する費用についても、建物を新築する費用があるわけですから、表題登記に関する費用がないというのは無理があります。これは、リフォームや増築をする場合についても同様です。

なお、現在、相続登記の申請が義務化になったことで、以前にも増して表題部や権利部に問題のある事案が目立つようになりました。なお、問題があるといっても、司法書士や土地家屋調査士の手によって、これをきれいにすることは不可能ではありません。ただし、時間と費用がかかるというだけです。

そのため、相続人らは、相続によって取得した未登記家屋、滅失登記未了建物、増築後の表題変更登記未了建物、さらには何代も前の先祖から名義変更を怠っている土地や建物、その他抹消されずに放置され続けた複数の休眠担保権等が設定されたままの不動産について、相続登記等の申請を否応なしにさせられているのが現状です。

相続登記の義務化は、一部の相続人らにとって多大な負担となっていることを肌で感じます。

したがって、目先の登記費用を節約するためとはいえ、その都度必要な登記申請を怠れば将来の相続人らがその費用負担を強いられることになるのは理の当然ですから、自分が亡くなった後、子孫にその負担を背負わせたくない場合は、その都度、適切に登記申請を行うようにしましょう。


以上のとおり、登記上と課税台帳上の所有者に齟齬が生じる現象は、固定資産税を支払いたくない、登記をする意味がわからない、登記費用を支払いたくないという理由で、必要な登記申請を怠ってしまった不動産の所有者の判断と行動がもたらした結果であり、かつ、これを管理する市町村等においても適切な調査と管理が行われていないことも、これが改善されない原因のひとつであるといえます。


以上