相続登記制度が新しくなります。

1 所有者不明土地の増加が深刻な社会問題に

「所有者不明土地」とは、相続登記等がなされないことによって、不動産登記簿から所有者が判然としない土地や、所有者はわかっているものの、その所在が分からず連絡がつかなくなってしまった土地のことをいいます。 

この場合、所有者を探すために多くの時間と費用が必要となり、公共工事や災害等による復旧・復興事業が進まなくなったり、土地取引が難航したり、景観や隣接する土地への悪影響が生じるなど様々な問題が発生しています。

実際に、東日本大震災や九州北部豪雨時等の復旧・復興事業の弊害となってしまった例もありました。

そして、この「所有者不明土地」はその面積が九州本島ほどあるともいわれており、少子高齢化によって今後さらに深刻化する恐れがあるため、今回「相続登記」制度を含む民事基本法制の総合的な見直しが行われることになりました。


2 法律のポイント

「所有者不明土地」の発生を予防し、利用の円滑化を図るためのポイントが3つあります。

1つめに、登記の申請を促進するために「不動産登記制度」が見直され、「相続登記」「住所等の変更登記」の申請が義務化されることになりました。

2つめに、「土地を手放すための制度(相続土地国庫帰属制度)」が創設されました。

3つめに、土地等の利用に関する民法全般が見直されました。

3 「相続登記」の申請義務化と「相続人申告登記」

まずは、「不動産登記制度」の見直しについて、「相続登記」の申請の義務化を中心にお話をしていきましょう。

これまでは、相続によって不動産を取得した場合でも、「相続登記」の申請は任意とされていました。

そのため、相続登記の費用や手続き負担を回避し、「相続登記」を何代にもわたって放置してしまうといったことが起こり、「所有者不明土地」が発生する要因となっていました。

そこで、今回「相続登記」の申請を義務化することで、所有者不明土地の発生を予防する見直しが行われました。

原則として、相続によって不動産を取得した相続人は、不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならなくなりました。

その後遺産分割の協議をした場合は、遺産分割の成立の日から3年以内の登記申請が追加的に義務付けられています。

そして、正当な理由なく、この義務に違反をした場合は、10万円以下の過料の対象となり、これらは、令和6年4月1日から施行されます。

ところで、相続によって不動産を取得した場合は、「相続登記」の申請義務を果たしていただきたいのですが、遺産分割の成立に時間がかかる等手続き的に相続登記の申請が難しい場合も出てきます。

そのような場合には、相続の開始と自分が相続人であることを登記官に申し出る「相続人申告登記」という制度が新たに設けられています。

ここで注意をしていただきたい点は、法律の施行日である令和6年4月1日より前に発生した相続についても、相続登記の申請の義務化が適用されるという点です。

既に相続や遺産分割の成立によって不動産を取得しているにもかかわらず相続登記を放置している場合は、施行日より3年以内に相続登記を申請する必要があり、過料の対象にもなります。

4 「住所等の変更登記」の申請義務化

「住所等の変更登記」の申請も義務化されます。

この登記申請も、これまでは任意でしたが、所有者の所在がわからないことで「所有者不明土地」が発生してしまうことを防止するために義務化がなされました。

この場合、住所等が変更した日から2年以内に変更登記を申請する必要があります。

正当な理由なく、この義務に違反をした場合の過料は5万円以下令和8年4月までに施行の予定です。

また、住所等の変更登記手続きの簡素化・合理化を図る観点から、他の公的機関から取得した情報に基づき、本人の了解があるときに限り、職権で変更登記を行う仕組みも導入されます。

さらに、登記事項証明書等の記載事項の特例として、DV被害者等を保護するために現住所に代わる事項を記載する制度も始まります。

5 相続土地国庫帰属制度の創設

今回新たに、相続や遺贈によって土地の所有権を取得した相続人が、法務大臣の承認を受けて、土地を手放して国庫へ帰属させることができる制度が創設されました。

但し、管理や処分にあたって費用や負担がかかる場合、例えば土地上に建物がある、担保権が設定されている、境界が不明な土地は制度の対象外とされています。

また、この場合、10年分の土地管理費相当額の負担金を納付しなければなりません。

この制度は、相続人等の土地を所有することへの負担感を減らし、所有者不明土地の発生を予防するために新たに設けられました。

なお、令和5年4月27日から施行されますが、法律の施行前に土地を相続した方も制度の利用が可能となっています。

6 「相続登記」の相談は150年の歴史を誇る司法書士へ

ここまで、相続登記の義務化を中心に今回の法律の変更点についてお話をしてきましたが、他にも、土地・建物に特化した財産管理制度の創設や共有制度、遺産分割に関する規定の見直し等、現代の社会経済情勢に合わせた法律の重要な変更がなされています。

多くの方に影響のある内容となっていますので、相続についてお困りの場合は、ぜひ「相続登記」の専門家、司法書士へご相談ください。

ところで、司法書士は、登記、供託、訴訟等に関する法律事務の専門家であり、国民の権利擁護と公正な社会の実現を図ることを使命としています。

明治5年(1872年)にルーツを有する司法書士制度は、令和4年8月3日に150周年の節目を迎えました。

私たち司法書士は、長い歴史のなかで常に研鑽を重ね、司法書士としての使命を自覚し、市民の権利や財産の保全に力を尽くし、身近な生活の困りごとの相談者として走り続けています。

お困りごとの際は、お気軽に中上司法書士事務所へお問い合わせください。